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スポーツコードの担当者に聞く リアルタイム分析を支えるテクノロジー

本記事は、2019年7月発売のfootballistaさん本誌第71号に掲載されたインタビューを、フットボリスタ編集部の皆さんと転載先のSportsnaviさんのご厚意で転載させていただいております。


「タグづけ」「動画共有ソフト」――サッカーの現場で最近この言葉をよく聞く。リアルタイム分析のキーワードにもなるテクノロジーとは何なのか? 欧州サッカーのトップクラブにも浸透している「スポーツコード」の担当者、高林諒一氏にリアルタイム分析の現状を聞いた。

そもそも「タグづけ」って何?

──サッカーの、特に戦術分析の現場で最近タグづけだったり、タギングソフトの話をよく聞くようになりました。そもそも「タグづけ」って何でしょう?

 まず会社によって呼び方が違うというのがありまして、一番メジャーなのは「タグづけ」ではあるんですが、hudl社としては「コーディング」と言っています。僕たちは「映像に付箋を貼っていく作業」という表現をよく使っていて、フルマッチ90分ある中で、シュートだったら、ここから打ったとか、誰からパスを受けたとか、そういうワンプレーの詳細まで含めてシーンごとに情報の付箋を貼っていく作業をコーディングと呼んでいます。

──OptaとかWyscoutとかいろいろなデータ会社があります。hudlはどういう位置づけになりますか?

 大きく分けると、データを自分たちで作って配給している会社と、僕らのようにデータを作るソフトやサービスを提供している会社に分かれます。hudlは、データを配給しているわけではなくて、データを作るためのソフトを提供している会社とご理解ください。

──ということは『タグづけ/コーディング』はデータを提供してもらうわけではなく、チーム側が自分たちでやるんですよね?

 はい。とはいえ、チームのスタンスやアナリストの数にもよると思うのですが、基本的にコーディングは非常に時間がかかる作業なので、hudl社としてデータ作成の代行サービスも提供しています。また、他のデータ会社のデータを読み込むことも可能です。ただ、チームオリジナルのKPIは必ずあると思うので、そういうところを自分たちでコーディングすることでスポーツコードを使う意味が出てきます。いろいろなサービスをうまく組み合わせて使ってほしいというのが僕らのスタンスですね。

──hudl社のタギングソフトである「スポーツコード」は欧州サッカーの現場の人からよく名前を聞きますが、具体的には何ができるんでしょう?

 分析に関することをワンパッケージでできることが特徴ですね。うちはソフト会社なのでデータを供給する会社とも共存できるのですが、供給されるデータは各データ会社の基準で項目立てられたり、計測されたものです。シュートやタックルなど各スタッツにはそれぞれデータ会社の定義があります。一方で、スポーツコードはチームのKPI、フットボリスタ風にいえばゲームモデルによって、項目や定義を自由に変えられるのが最大のメリットです。なので、ゲームモデルの実現度を測る指標を作ることができます。

 あとは日本国内のアナリストは映像編集ソフトで映像を切る人が多いですが、それって大変ですし、見せ方にも限界があると思います。スポーツコードは分析のために作られているので、映像に単純にタグをつけるだけでなく、ドローイング、円や矢印を書いたりといったことが簡単にできますし、プレゼンテーションを作る機能もついています。あとはアーカイブ性ですね。映像をコーディングした後に、その項目がいつ、何回起こっていてというのを数値化していって、それを全部データとしてアーカイブできます。映像とデータが常にひもづいた状態になっているので、そこは映像編集ソフトとの大きな違いですね。

 最後のメリットは今回のテーマになってくると思うんですけど、試合中にリアルタイムで使えることです。映像に印をつけるだけなので、印さえついていれば、すぐにそこから再生できる。スポーツコードを使えば試合中に見たいシーンをすぐに再生したり、データもリアルタイムでどんどん更新できるので試合の中で即座に使えます。タグづけソフトというジャンルで言うと、リアルタイム性を持っているものと、持っていないものがありますが、スポーツコードに関していえばリアルタイム性と独自の指標を設定できる点が圧倒的な強みです」

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──現場でリアルタイムにタグづけするのって大変じゃないんですかね? シュートから何から膨大な量があるじゃないですか?

 サッカーの試合でリアルタイムに必要なものって実はそんなに多くないと思っています。なので、試合後にタグづけすればいいものは試合後にやればいいですし、試合中の使い方としては、例えば『この特定のエリアにどれくらい侵入できているか』という、このゲームのKPIをチーム内で共有しておいて、そのKPIを満たしている/満たしていない、満たしていないならばその映像を見て何が問題なのかをスタッフ間で話し合い、ハーフタイムに映像を1つか2つピックアップして選手たちにフィードバックすることなどがありますね。

──昨年のロシアワールドカップ(W杯)のタイミングで電子機器のベンチへの持ち込みが解禁されて、欧州サッカーのリアルタイム分析が一気に進んだ印象があります。

 プレミアリーグとかブンデスリーガでは当たり前の光景になってきていますし、僕らもハドル・リプレイという、スポーツコードでタグづけした情報をベンチにあるiPadにリアルタイムに送るサービスを始めました。ブンデスリーガやプレミアリーグでは昨シーズンずっとテストさせていただいていて、今年のFIFAの女子W杯では正式採用していただき、全試合全会場で使われています。

──女子W杯は最新情報なので、ぜひ聞きたいと思っていました。

 前述のハドル・リプレイが使われており、試合映像を見たらおわかりだと思いますが、必ずベンチに1台iPadがあって、そこにスタンドにいるテクニカルスタッフが分析した内容がリアルタイムで送られてくるのが基本的な流れです。

──現場からのフィードバックってあったりします?

 基本的には評判は良くて、気に入っていただけていると聞いています。初めて使う方もいましたが、今回の女子W杯はうちの人間もサポートしていますし、大きなトラブルなどはないです。スポーツコードもハドル・リプレイも、運用する側はボタンをポチポチ押すだけなので、使うのが難しいという話も聞かないですね。

──使い方としては、例えばシュートがどのエリアから何本打たれていたりとかがリアルタイムで分かるでしょうし、そのタグを押すとすぐにシュートシーンの映像が連続で出てくるとかですか?

 イメージとしてはそうです。ただ、監督がシュートシーンを連続で見たりするのはハーフタイムでしょうね。試合中に監督がハドル・リプレイを使うとしたら、さっきのCKの守備がうまくいってなかったけどなぜなのか? とか、現状のシステムの噛み合わせとか、そういうことを確認するのに使っているケースが多いと思います。

──プレミアとブンデスでも利用が進んでいるという話でしたが、向こうの現場はこういうソフトを有効活用しているんですね。

 海外でいうとイングランドはプレミアリーグもチャンピオンシップも全チームがユーザーですし、リーガエスパニョーラも8割、ブンデスリーガも数チーム以外全チームで使っていただいています。向こうが進んでいるなと感じるのは、トップチームの監督やスタッフはもちろん、アカデミーのコーチまで含めてクラブの全員がスポーツコードの入った端末を1台ずつ持っていて、アナリストが分析したものをコーチに渡す、コーチたちが自分で好きなようにピックアップしてクリップを作る。そういうフローがクラブ内で確立されてきていることです。

 あと、うちの宣伝っぽくなってしまうのですが、ヨーロッパってアナリストの求人がオープンに出ているじゃないですか。その要件の中に『スポーツコードを使える』という内容が入っていることが増えてきています。いちサッカー好きとして欧州サッカー全体のクラブ内のデータ共有であったり、リアルタイム分析を含めて意識の高さ、進化を感じてしまいますね。

──テクノロジー面では今後どういった進化が予想されますか?

 今後のトレンドで言うと、AIによる自動撮影がトピックですね。AIで撮影するカメラ1台をスタジアムに設置するのですが、1つのユニットにカメラが3個ついているんですよ。仕組みは、3個のカメラでピッチの端から端までパノラマで映しておいて、試合の流れに応じてフィールドプレーヤー全員が収まるような画角で常にAIで撮り続けるというものです。ベルギーリーグで来季から採用されます。hudlが1部2部の全24クラブのスタジアムにAIカメラを設置し、さらにスポーツコードとハドル(共有プラットフォーム)を全クラブに提供します。ベルギーリーグの事例はリーグ全体での導入という点で1つの先進的な取り組みになりますが、自動化は1つのキーワードなのかなと思います」

──最後に、日本サッカーに期待することを教えてください。

 日本の事情でいうと、専業のアナリストがまだ少ないですよね。現状コーチをやっているテクニカルスタッフの方が頑張って兼業されているチームが多いので、アナリストを究めようとする方がなかなかいません。それこそTwitterの戦術クラスタとか、学生で目指したいという方が増えているので未来は明るいと思いますけど、そこはまだ海外と差があるのかなと。今後はベンチにあるiPadでリアルタイムに映像やデータを見ていくのが当たり前になっていくでしょうし、分析できる内容もさらに詳細になっていくのは間違いありません。国際的な競争力を保つためには、アナリストの発掘や育成は必要不可欠だと考えており、僕たちもそこに貢献していきたいです。

インタビュー・文/浅野賀一(footballista編集長)
編集協力/堀本麦(フットボリスタ・ラボ)
プロフィール
高林諒一(たかばやし・りょういち)
hudl 日本担当
1990.10.19(28歳)
世界中で採用されている映像分析ソフトである「スポーツコード」「ハドル」などを開発するhudl社唯一の日本人社員。慶應義塾大学卒業後、総合PR代理店勤務を経て、ドイツ5部にてプレー。帰国後にスタジアムの映像・音響システムの営業職を経験後、2018年12月より現職。Twitter: @tkb84_hudl

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