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「感覚的な指導には限界がある」車いすバスケ日本代表アナリストからの提言

映像分析ツール『Hudl(ハドル)』は、試合動画をアップロードするだけで、24時間以内にスタッツ集計やタグ付けなど詳細なデータ分析を代行。世界中のスポーツチームで映像分析の一翼を担っています。

車いすバスケットボール男子日本代表も、Hudl Sportscode(以下、スポーツコード)を使った映像分析に力を入れているチームのひとつ。2019年の導入後、東京2020パラリンピックでは史上初の銀メダルを獲得しました。

今回は、日本代表を初のメダルに導いた京谷和幸ヘッドコーチを分析面から支えるアナリストの岸秀忠(きし・ひでただ)さんに、スポーツコードの活用法や分析する立場としての選手との向き合い方についてお話を伺いました。

映像を「見る」のではなく「活用」する

ー車いすバスケットボール男子日本代表チームでは、どのようにHudlを使っているか教えてください。

基本的には、ヘッドコーチの指示をもとに映像の編集を行なっています。

得失点シーンや複数あるディフェンスの戦術など、ヘッドコーチからリクエストを受けた場面の映像を切り取って、大会中であれば試合当日にアップロードして、翌日の試合に活用します。

もちろん映像は選手たちと共有します。編集する前の映像はすぐにクラウドにアップロードし、切り取った映像もその日のうちに選手に共有します。それ以外にも選手たちから欲しいシーンのリクエストがあれば、スポーツコード上で個別に編集を行い、直接フィードバックします。

ー選手たちはどのくらい活用していると感じますか?

直感的にプレーする選手もいるので全員が活用しているわけではありませんが、約6〜7割の選手が映像をチェックしていて、その中の約2〜3割の選手から特定のシーンが欲しいとリクエストを受けます。

ー映像をリクエストする選手は、どのようなシーンを求めるのでしょうか?

自身のプレーシーンを希望する選手が多いです。中には、試合の流れをチェックするために戦術面に関わるシーンを求める選手もいます。そういった選手は戦術理解度の高さがプレーにも表れていますね。

他にも、「ミスマッチ」という、背の低い選手と高い選手が対峙した瞬間のシーンを求める選手もいたりと、どんな映像をリクエストするかで選手個人の視点を知ることができて興味深いです。

ーとりわけ積極的に映像を活用している選手はいますか?

キャプテンの川原凛選手はかなりコアに映像をチェックしています。車いすバスケにはハイポインター(軽度障害の選手)とローポインター(重度障害の選手)という異なるクラスがありますが、ローポインターは自分にできる仕事が限られているため、いかに味方を活かすかを研究すべく映像を活用する選手が多い印象があります。

ー映像活用によって、選手のプレーが改善されたケースがあれば教えてください。

これは一例ですが、リバウンドの取り方や位置取りを課題としていた選手から、参考になるプレー映像のリクエストを受けたときに、いくつかピックアップして過去の好プレー集を渡したことがありました。

実際にその選手は、次の合宿で大量にリバウンドを取っていましたし、映像の活用がプレー改善につながることは間違いないと思います。選手の顕著な変化を見ると、自分としてもやりがいを感じますし、やっていて良かったなと感じます。

ー将来的には全選手に映像を上手く活用してほしいですね。

全選手の活用が理想ではありますが、私としては映像を活用するかどうかの最終判断は選手個人に委ねたいと思っています。

私自身が現役だった頃、プレー映像を見ていて眠たくなることもありましたし(笑)。無理に見ることにはあまり意味がないかなと。

映像を見ることは一つの手段であって、パフォーマンス向上の全てではありません。実際のプレーを重視する選手もいるので、強要はしたくないですね。

とは言いつつも、映像によって得られる情報は多いので、可能なら見てほしいというのが本音です。そして「見る」だけでは不十分で「活用」こそが重要だと考えているので、選手の主体性に期待しています。

情報を伝える上で一番大切な「分かりやすさ」

ーミーティングで全体に共有する際の映像編集について、特に意識している点はありますか?

バスケットボールはよく点が入るため、得点シーンを切り出すだけでも長尺になりがちです。大事な部分を残しつつ、いかに短くするかを意識しながら編集しています。ただ、どのシーンを削るかの最終判断はヘッドコーチに委ねていて、自分の色を出しすぎないことも意識しています。

ー映像の活用方法についてですが、自チームの試合の振り返りと、対戦チームのスカウティング、どちらに割く時間が多いですか?

合宿中は自分たちの試合を中心に見返すことが多いですが、遠征中は次の対戦チームの映像を中心にチェックします。そして遠征が終わった後の次の合宿で、再び自分たちのオフェンスとディフェンスを全体的に見直すのが一連の流れですね。

ーどちらの映像をより重視しているのでしょうか?

それは時期によります。例えば、今は来年行われるパリパラリンピック予選に向けてチームの成熟度を高める時期なので、自チームに目を向ける機会が多いです。

しかし、いざ予選が始まれば、他国の情報が非常に重要になります。私個人としては、すでに今も対戦相手のスカウティングに注力している段階なので、一概にどちらとは言い難いというのが正直なところです。

ー次のフェーズではスタッツの分析を行われるとのことですが、具体的にはどのように進める予定でしょうか?

ヘッドコーチから「自分で考えて作っていい」と言われているので、まずは分かりやすさを意識して作る予定です。日本代表チームはディフェンスを重視したスタイルなので、ディフェンスの達成率や成功率を出したいです。

逆に、相手の分析を通じて、どのようなディフェンスが苦手かも分かるといいなと。それらの情報を数字で可視化して、フィードバックの際に分かりやすく説明できる資料を作りたいです。

ー分かりやすさは大切ですね。

短時間で一気に複雑な情報を伝えると、選手を混乱させる恐れもあります。選手がパッと見て理解できるような分かりやすさこそ重要だなと。選手がその情報に目を向けてくれることが、一番大事だと思っています。

感覚的な指導の脱却が、コーチの求心力を高める

ー2019年からHudlを導入されていますが、選手たちの映像分析に対する関心は徐々に高まってきていますか?

映像分析への関心が高まっている感覚はあります。一方で、私が具体的に何をしている人かまでは伝わっていないでしょうし、それを伝える必要性もそこまでないかなと。

なぜなら選手はヘッドコーチとコミュニケーションを取るべきですし、私個人が直接選手たちにアドバイスをするのは越権行為に近いという感覚もあるので、あえて選手とは適切な距離感を保っています。

もちろん選手への映像提供は惜しみませんが、指導には介入しないように気を付けています。だから中には、私がただ映像を撮影している人だと思っている選手もいるかもしれません(笑)。

ー岸さんはスポーツコードのヘビーユーザーだと伺っていますが、使用感について教えていただけますか?

スポーツコードがなければ仕事にならないと言っても過言ではないくらい使っています。使い始めた当初は「どこまでできるのかな?」といった感じで手探り状態でしたが、今ではかなりできることも増えました。

分析結果がパッと自動で出力されたり、見やすく表示されたりすると、すごく楽しいです。これを手作業でやるのは絶対に無理だなと思いながら使っています。映像編集や分析をする上では、スポーツコードがないと困ります。

ー現在、選手を支援する立場として映像分析を行われていますが、逆に自分が選手だったとしたら、映像の重要性を感じますか?

私の現役時代は映像分析の技術もツールも発達していなかったので、映像を見るとなると1試合を全部見るような感じでした。その場合、何をどう捉えていいかが分からないんです。

でも今はスポーツコードで編集した映像で、こちらが伝えたいメッセージを明確に打ち出すことができますからね。自分の現役時代にもこれがあったら本当に助かっただろうなと思います。

先ほど映像の活用は強要したくないとは言いましたが、映像を使うことで間違いなくパフォーマンスは向上すると思うので、選手にはその魅力を伝えたいです。

ー情報を伝える側、あるいは指導する側として、映像や分析は必要だと感じていますか?

間違いなく必要だと思います。やはり感覚的な指導はある程度の所で限界が来てしまうんです。指導者が感覚で伝えると、いずれ選手との間で見解の相違が生じます。

一方で、映像や数値という客観的な情報を提示できると、指導をする上で説得力が大きく増しますし、結果的に求心力も高まります。そういった意味でも映像や分析は上手く活用できた方が良いかなと思います。

ー最後に、来年のパリパラリンピック予選に向けて、今後取り組んでいきたい課題を教えてください。

パリパラリンピック予選では、オーストラリア、イラン、韓国といったアジアの強豪国と2つの出場枠を争う極めて厳しい戦いが予想されます。現在は日本代表チームの強化を目的とした分析がメインですが、今後は対戦チームのスカウティングが非常に重要になってきます。

もちろん対戦「チーム」だけでなく、対戦「選手」の分析にも注力したいです。映像を分析してスタッツに出すことで「この選手にはこういう傾向がある」と客観的に示せたらいいなと。

どれだけ対戦国を分析できるか、選手に分かりやすくフィードバックできるか、この辺りが今後の大きな課題です。最終的には、出場枠の確保に映像や分析が寄与できたら嬉しいですね。

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