「対戦相手の弱点も選手の課題も即わかる」バスケの名門クラブチーム代表が語る「とっておきの分析術」
映像分析ツール『Hudl(ハドル)』は、試合や練習動画をアップロードするだけで、24時間以内にスタッツ集計やタグ付けなど詳細なデータ分析を代行。チェックしたい部分だけを抽出できる便利さもあり、世界中のスポーツチームで映像分析の一翼を担っています。
千葉県柏市を拠点に活動する「レオヴィスタバスケットボールクラブ」も、Hudlを積極的に活用しています。元日本代表やプロ選手による質の高い小中一貫指導に定評があるクラブとして知られ、Hudlの導入によって選手はもちろんのこと、保護者も指導や練習内容に対する理解が深まったといいます。
今回は、同クラブの代表理事でメインコーチも務められている金子暁海(かねこ・としうみ)さんに、Hudlを導入した経緯や、使用することによって起きたチームの変化などを伺いつつ、クラブの特徴や強さの秘訣、今後の目標などもお話しいただきました。
保護者への説明にも『Hudl』を活用
―どのようにHudlを使っていますか。活用法を教えてください。
選手たちには、Hudlの分析結果をもとに現在の習熟度や改善点などを説明しています。例えば「俺はあいつと1対1をしても負けないですよ」と言う子がいたら、「5対5の中でスタッツを見たらどう?」と提案して、Hudlで映像を確認してもらいます。そうすることで自分のレベルを客観的に判断できるようになるんです。
また、試合前の合宿ミーティング時に、チームとしての共有事項を確認しています。「このエリアのシュートが少ないよね」など、みんなで一緒にチェックできるのがいいですね。試合にすぐ活かせることができるのも大きなメリットです。スタッフ陣で相手チームをスカウティングする時にも活用しています。
また、選手だけではなく保護者の方々へ説明する際にもHudlを活用しています。選手層が5歳〜15歳までということで、保護者の方々と対話する機会も多く、実際にHudlを使って説明するシーンも多々あります。
「うちの子は、なぜ試合に出られないのか」といったご相談をよくいただくんです。こちらとしてもできる限り論理立ててお伝えはするのですが、言葉だけでの説明には限界があり、納得いただけないこともあったんです。
ですがHudlを使うことによって、試合のスタッツをお見せしながらの説明が可能になりました。保護者の方にご理解いただけることが増え、非常に助かっています。
―Hudlを使い始めた経緯を教えてください。
クラブを立ち上げた当初から、データを活用した指導をしたいとずっと考えていました。ただ、映像編集には時間と手間がとてもかかります。私自身、インターン時代にビデオコーディネーターをしていた経験があるので実感してきました。
それを承知のうえで映像分析を行うことを決め、まずはツールの選定から始めました。最初はHudlとは別のツールの利用を考えていたのですが、そのツールを使う場合は自分たちである程度の編集をする必要がありました。
選手たちにとって映像を編集することはすごく勉強になります。ですが、今の小中学生はバスケ以外にも、学校の宿題や塾通いなどでとても忙しく、映像編集までは手が回らないと思いました。
ちょうどそのタイミングで、Bリーグの新潟アルビレックスBBの方から、Hudlのことを教えていただいたんです。実際にお話を聞き、Hudlアシストという機能も便利で、非常に効率の良いツールだなと思い導入いたしました。映像をアップロードするだけで、24 時間以内に映像、スタッツ、レポートを受け取ることができるんです。
導入したことで起きた「選手たちの大きな変化」
―導入したことで、選手のみなさんのプレーや意識に変化はありましたか?
ウィークポイントの練習をする選手が増えましたね。一番わかりやすいデータとしてあるのが、右と左、自分の利きサイドがどちらなのかということ。普段から「利き手ではない方の練習をしよう」と話していても、やっぱり自分の好きな方、得意な方ばかり練習しがちなんですね。ですが、Hudlを使って数字を示したら、みんな意識して苦手な方を練習するようになりました。
―昔と今では、プレースタイルが大きく変わってきていると思います。インプットのために、金子さんご自身がしているHudlの活用法というのはありますか?
相手チームをスカウティングするうちに、中学生バスケの大体の流れがわかってきました。クオーターごとのスリーポイントシュート数などを数字で見ると、例えばスリーポイントは20本くらい打てばいいのかなと見当をつけられます。
具体的な数字がわかる、わからないでは、子供たちの意識や練習内容に大きな差が出てきます。数字から課題や目標が見えてくるので、練習メニューを組み立てるうえで、スタッフと共有しながらかなり活用させていただいています。
―中学生年代のバスケのトレンドというと何かありますか?
指導者の方針が二極化していますね。比較的若くて指導歴が浅いコーチは、アウトサイド中心のバスケスタイルが多いです。一方、もともと部活で指導していたり、クラブを立ち上げたりと指導歴の長いベテランの方々は、徹底してインサイドで攻めるバスケを教えていますね。
最終的にどちらが勝つかと言えば、やっぱりインサイドです。中学生なのでアウトサイドのシュート力がそこまで上がらず、結果として都道府県の上位やジュニアウインターカップなどに出場するチームは、インサイド中心のバスケをやっている学校が多いと感じています。
千葉の名門クラブチームが「ずっと強い理由」
―中学生年代における体力の伸びしろは、計り知れないものがあると思います。しかしながら、最近のバスケ界のトレンドとしてフィジカルよりもスキルが重視されているように感じます。この二つのバランスについてどのように意識されていますか?
私たちは、体力面を重視しています。専門のトレーニングコーチの指導のもと、選手たちは必要な距離をしっかり走っています。他のクラブから見れば我々の練習は厳しく感じられるようですが、結局のところ、スキル向上には基礎体力や運動能力が欠かせません。
ですから多くのクラブは、こちらと対戦すると体力や運動能力が削られるんです。ではスキル面ではどうなのかというと、正直なところ相手チームもそこまで高くはありません。こういった状況もあり、今は私たちが勝利する状態が続いています。
近年はSNSの発達により、いろいろなスキルを教えているチームが増えましたが、試合時にディナイ(※)をハードにしたら、そもそもボールを受けられない状態になってしまうことも。中学生は心肺機能が一番高まる年代なので、走り込みなど体力の強化はやはり必要だと思います。※ディナイ:マークする選手にボールを持たせないようにするディフェンスの方法
―育成年代ではチームごとに指導方針が大きく異なり、それぞれに特色があって面白いですね。体力面以外に力を入れて指導されていることはありますか?5歳から15歳まで幅広い年代の選手が在籍されていることもあり、指導方針も年代ごとに違うのでしょうか。
私たちのクラブでは年代ごとに4つのカテゴリーを設けていて、指導方針もそれぞれ異なります。最も年齢の低いU-8では、バスケをするのではなく単純にボールに触れてもらうイメージです。U-10になって、バスケットボールという競技を楽しんでもらいます。そしてU-12からは、競技性を意識することを目的としています。
U-15の選手には基礎的な技術を習得してもらい、体力、スキルが全て高まった状態でU-18へ進みましょう、というコンセプトでやらせていただいています。またこの年代は勝利に向けた戦術や戦略、試合に向けた準備の重要性を意識するような指導も行なっています。
―指導者の方々についても教えてください。
私たちのクラブには2つの大きな特色があります。まずひとつは、日本代表やプロといったトップレベルのバスケ経験者が直接指導に当たっていること。
トップに上り詰めた方々の努力は、想像以上にものすごいんです。そうした経験を子供たちにぜひ伝えてもらいたいという思いから、一流の方々に指導をお願いしています。
そしてもうひとつが、スキルやトレーニングなど分野ごとに専門性の高い指導者を揃えていることです。育成年代の指導者は、全て自分で見ることを望む方も多いのですが、私は「餅は餅屋」だと思っています。
ですから私たちのクラブでは、トップチームに近いスタイルで、各分野の専門の指導者がコーチングをして育成を図っています。今年は、バスケの育成大国と言われるスペインから、ライセンスを取得しているコーチを招聘しています。
小中学生のクラブチーム最新事情
―金子さんはバスケ経験者であり、海外でもいろいろなバスケを見られたそうですが、海外と日本の育成年代のギャップはどこにあると思いますか?
日本の育成システムは海外よりも遅れていて、最大の違いは資金面にあると思っています。日本には、ボランティアによって運営されている非営利のクラブもあれば、我々のような法人が運営するクラブ、プロクラブのユースもあるなど、ひとつのカテゴリーにさまざまなクラブが混在しています。
当然ながらみんなが勝利を目指すので、クラブ間で選手の取り合いが発生します。これにより、選手層の偏りや選手間でのトラブルなど多くの問題や不満を引き起こしているのです。
対してスペインではレベル別にしっかりカテゴライズされていて、優秀な選手をコーチがワンランク上のチームに推薦する仕組みになっています。上のチームへの移籍が決まると、移籍先から移籍元にお金が支払われるので、選手はもちろん、育成側も成果を感じられますよね。
ビッグクラブのコーチはチームを勝たせることが仕事。一方で、下のカテゴリーのクラブのコーチは、選手を成長させてビッグクラブに送り出すことが仕事であり、それで生計を立てることになります。
カテゴリーごとの役割分担とお金のフローがはっきりしているため、日本のようなトラブルはそんなにないと、スペイン人コーチからも話を聞いています。
ですから、日本もチームをレベル別に分けるといいと思うんです。階層を明確にすることで僅差の戦いも生まれますし、そういった試合が増えることで選手のモチベーションも上がります。やはりレベルの違うチームが戦って、結果が100対10だったら、どちらの選手も成長できないし楽しめません。同じレベルの選手同士の対戦を増やすことがバスケ界全体の底上げにつながると感じています。
また、日本では子供や教育への投資に否定的な考えを持つ人もいますが、全てが“悪”ではないと思います。良いコーチやスタッフ陣を確保するには当然お金がかかります。良質な指導を提供するためには、資金も必要であることを理解いただけたらありがたいですね。
―戦術やスキルについて、海外との違いはいかがですか。
意外に感じるかもしれませんが、海外の方が基礎を重視していますね。加えてコーチの指導は細かくて厳しく、そして熱く激しいです。細かい部分をどれだけ徹底して行なうかで、やはりその先の結果が変わってくるのだと思います。
―基礎というと、ドリブルやスクリーンのかけ方、タイミング、戦略など、全てを指しますか?
日本だと2対2をやったらすぐ3対3、4対4、5対5と移っていきますが、海外は2対1から、細かくかみ砕いて指導します。その後のターンの仕方も、フロントなのかリバースなのか、どの角度で出すのかなどを詳しく教えることが多いですね。
さらにアメリカの場合は、バスケットができる時間が比較的長いんです。練習自体は日本とあまり変わりませんが、練習以外にバスケットボールができる時間・場所が多いので、子供たちはNBAの技を真似したりして練習して使っています。
スペインの場合は、練習時間が決まっていて、それ以降はやりません。ですから、時間内に徹底的に細かく詰め込むんです。そこに120%の力を注げないならもう来るなという感じですね。私たちのクラブのスペイン人コーチもとても厳しいです。
―早いうちからひとつひとつを徹底的に教えてもらえるというのは、すごくいい環境ですね。では最後に、今後の目標を教えてください。
クラブを立ち上げて10年になりますが、ここから先は今までとは全く別の10年になると思っています。今後は、他クラブさんとの差別化を図るべく、指導のクオリティ向上や育成システムの拡充に注力していきたいです。
Bリーグやワールドカップをきっかけに、今バスケットボールが盛り上がっています。携わっている者としては本当に嬉しいですし、このタイミングで何か仕掛けるのもいいのではないかと思っています。U-18や海外にチームを作るなど、新しいことにチャレンジしたいですね。
課題としては、先ほどお話しした資金面についてです。高い費用を払って海外や県外に遠征する文化は少しずつ根付いてきていますが、もっとご理解いただけるような環境作りをしなければいけないと思います。選手や保護者の方々をあえて“お客様”と言わせていただきますが、お客様がお金を払って満足していただけるようなサービスをちゃんと提供できるようにしたいと考えています。