テクノロジーで進化する、アナリストの役割とワークフローとは。スポーツアナリティクスジャパン2023レポート
2023年5月20日、東京都内にて「スポーツアナリティクスジャパン2023(SAJ2023)」が開催されました。SAJは、各競技の現場で活躍するアナリスト集団「日本スポーツアナリティクス協会(JSAA)」が2014年に立ち上げたイベント。各競技で分析に携わるスペシャリストの方々やスポーツビジネスに関わる方々が登壇し、さまざまな観点からデータ分析についての議論が繰り広げられました。
今回は、トヨタ紡織サンシャインラビッツ(女子バスケ)でアナリストを務める福田有利子氏が登壇しました。議題は「テクノロジーで進化する、アナリストの役割とワークフローとは」。テクノロジーの変化にともなうアナリストの役割、ワークフローの変化についてお話しされました。
今回は、セッションの一部を抜粋してお届けします。
アナリストの役割とワークフローとは。
トヨタ紡織サンシャインラビッツでアナリストを務める福田と申します。早速スポーツアナリストの役割とワークフローについて説明していきたいと思います。
そもそもアナリストに関して様々なイメージを持たれる方がいますが、「試合会場の上の方でPCをカタカタやってる人」と思っていただいて構いません。実際の仕事内容をご紹介したいと思います。
まずリーグの年間スケジュールとしては10月から4月がオンシーズンになります。6月から活動自体は開始し、9月までがプレシーズンで、練習試合や合宿を行います。
私たちのワークフローとしては、プレシーズン、オンシーズンの練習日、オンシーズンの試合日の三つに分けられます。
プレシーズンのワークフローは以下です。
ずっと仕事をしているというよりは、コーチとコミュニケーションを取りながら進めています。プレシーズンは日々のルーティン業務に加え、情報収集と整理をしています。まずメインオフェンスとメインディフェンスを決めるにあたって、例えばモーションオフェンスの起源やそれを始めたコーチなどについて調べていくと、その原理原則の理解が深まります。知識の海にダイブするイメージです。
またシーズン中の業務をどれだけ効率化できるかもプレシーズンにかかっています。練習中はビデオコーディング、練習後ビデオチェック、フィードバックをして早めに帰ります。
情報収集と整理についてさらに説明します。
マシン性能あってのやり方ですが、私は30試合くらいを一本の映像にし、長いタイムラインの中でプレーの分類をしています。ラベルづけに関してはHudlさんに外注し、基本的なスタッツは入っているので、プレーの分類と解釈、強み弱みの分析、どれに対する対策が必要かを考えるのがアナリストの役割になってきています。
以下実際のレポートですが、Excelで作っていて、それぞれのデータに映像を紐づけています。これをシーズン中に全てやるのは大変なので、プレシーズンにやっています。
オンシーズン練習日のワークフローは以下です。
練習日は練習のライブコーディングが肝なのですが、以前はハンディカメラで人が撮り、その映像をPCでエンコード、その後選手のハードディスクに入れる、という作業を毎回していたのですが、今では全てHudlさんにやってもらっています。
練習場の壁にハドルフォーカスを設置し、それが練習を全て撮影してくれます。iPhoneでの遠隔操作が可能で、ボールと選手をカメラが追うことができます。たまに見切れることがありますが、左右に固定カメラもあるので、そちらで映像を確認できます。
また振り返りがしやすいようにコーチのコメントと該当シーンを紐づけて、後から一覧で確認できるようになっています。
オンシーズン試合日のワークフローは以下です。
試合日も同様にライブコーディングが肝ですが、試合会場にはハドルフォーカスを持っていけないので、ハンディカメラを持ち込んで撮影しています。Bリーグの場合はベンチ側にカメラがあり、その試合映像を取り込みながらライブコーディングを行なっていますが、Wリーグはそこまで進んでいないので自分たちで撮影しながらその映像を取り込んで、同時にライブコーディングしています。
私はハーフタイムでのフィードバックを大事にしていています。多くても3ポゼッションくらいしかフィードバックできないので、索引をわかりやすくして、早く特定の映像を引き出せるように意識しています。
アナリストの役割は変化している。
ここまでワークフローを見てきましたが、昔と比べて圧倒的にツールが進化したことと、取得できるデータの増加を感じています。私がいた2015、 16年の頃はラベリングをひたすらやっていて、その正確性を求められていましたが、今は時間の余裕ができてきてとてもありがたいです。
現在はデータ収集の部分でテクノロジーが介入していますが、今後はその整理、分析、そして提案の仕方、クリエイティブさにも介入してくるのではないかと思います。
以前までは現状の確認・データ分析までしかアナリストは関われていませんでしたが、今では課題設定まで関わることができると思っており、チーム作りにおけるアナリストの介在価値が高まっていると思っています。
アナリストの提供価値はコーチや戦術等で変わるので、日々変化すると思いますし、それに対応していきたいと思っています。
昔は動画編集などの作業がメインでしたが、できることの裾野が広がっており、それぞれの強みによって様々な役割が出てきていると思っています。私自身はデータを収集、定義をしてコーチに提案する、またコーチのぼんやり考えていることをデータで根拠を持たせて選手に提供する、などトランスレーター的な役割を果たしていると思っていますが、これも日々変化しています。