目標を超える数値。トロムソはこのまま勝ち続けるチームになりうるのか
近年劇的に変化しているノルウェーの国内プロサッカーリーグ(エリテセリエン)。2020年と2021年にはボデ/グリムトが連続タイトルを獲得しました。ノルウェー北部の伝統的な強豪は常にトロムソでしたが、現在は強力なライバルらによって影を潜めています。しかし復調の兆しは見えており、今シーズンはチャンピオン争いの一角を担いました。トロムソにとっては激動の半年......彼らはどのようにして降格からエリテセリエンの上位に挑戦できるまでに至ったのでしょうか?
ライバル、ボデ/グリムトの台頭
2019年、トロムソはシーズン最終日に降格を喫しました。
チームを率いていたヴァラカリ監督は、降格後に退団。トロムソ近郊にあるもうひとつの北部チーム、トロムスダーレンで140試合を指揮したガウテ・ヘルストゥプ監督が後任となりました。2020年にヘルストラップ監督はトロムソをOBOSリーグのタイトルに導いたものの、同時期にエリテセリエン王座を獲得した地元のライバルボデ/グリムトによって影が薄くなってしまいました。
トロムソは、北極圏の奥深くに位置する世界最北のプロサッカーチームです。たとえリーグタイトルを獲得できなくても、彼らは常に地域の覇権を誇っていました。グリムトの台頭ですべて変わりましたが、むしろライバルの出現がチームにより集中力を持たせたのかもしれません。
戦術とフォーメーション: 予想以上の達成はあり得るのか?
ガウテ・ヘルストラップ監督はクラブに加入して以来、戦術とプレースタイルに一貫性を持ってやってきました。基本的に3-5-2フォーメーションを採用していますが、場合によっては 5-4-1 または 4-4-3に変更することも。トロムソはウイングバックを起用しているにもかかわらず、今シーズンのエリテセリエンでクロスの数が最も少なく(251本)、クロスの精度も最下位(29.5%)でした。このシステムだとウイングバックの1人は常にバランスをとっていて、より守備的になります。しかしここ数年の中心選手は、より攻撃的な志向を持つ右ウイングバックのニクラス・ヴェスタールンド選手です。
一方トロムソは今シーズン、明確な成果をあげており非常に興味深い事例です。xG(ゴール期待値)がリーグで 3番目に悪い (25.06)ものの、30ゴールを記録しました。さらに、パス成功期待値はワースト6位の予想を覆し、3位で終了。攻撃面では大きな不足があるものの、守備面では明らかな強みを持っています。ファイナルサードでは、ペナルティエリア内でのタッチ数が3番目に少なく(337回)、シュート数は下から2番目(189本)、90分当たりのコーナーキック数も3.33本と最も少なかったです。
「落ち着いてプレッシャーを吸収する」ユニークなプレススタイル
ヘルストゥプ監督には、非常に興味深い戦術があります。
トロムソのPPDA(パスごとの守備アクション値)は、エリートセリエンの中で最も高いです。言い換えれば、「ボールを持っていないときはプレスを減らし、より離れてプレーしている」ことになります。これにより、エリートセリエンで2番目に少ないファウルを生み出し、チャレンジの強度も最低(4.30)となっています。しかし、シュート数が 226 本で 5 番目に少なく、xGA(予想ゴールアゲインスト数)で目標を超えているにもかかわらず、依然として部門で4 位(28.34)。トロムソ自身のポゼッション時のPPDAは12.56です。落ち着いてプレッシャーを吸収することを好んで行なうユニークなチームで、ボールを持ったときは単にボールを長くプレーするカウンター攻撃のチームではなく、よりコントロールできています。
守備を中心とした、トロムソのキープレーヤー
今シーズン、トロムソの4人の選手が際立っています。
一人目は、守備の要であるゴールキーパーのヤコブ・ハウガード選手です。ハウガード選手はわずか16失点、xGC(失点期待値) 19.24 を記録しました。セーブ率の高さはもちろん、エリア内での指揮も彼の大きな特徴です。身長199cmで、リーグのどのキーパーよりも多くの空中戦を 90 分あたり行なっています。
中央守備の要であるヨシュタイン・グンダーセン選手も重要なピースです。ユースからトロムソに所属してきました。今シーズンはディフェンスデュエルとプログレッシブランの両方でトップ10内にランクしており、強力で堅実なオールラウンダーです。
右ウイングバックのニクラス・ヴェスタールンド選手は、xG(ゴール期待値) 3.22で4アシスト、3ゴールをマーク。このポジションの中では高い数値となっています。
トロムソは、アウグスト・ミケルセン選手、ウォーレン・カマジ選手、エリック・キトラノ選手などの才能ある人材が今年合計300万ポンド以上の移籍金を稼いでいるほど、移籍市場でも調子を上げています。さらに印象的なのは、クラブが以前の体制と比較して、これらの数字に代わるはるかに優れた才能が目立っていることです。
その一例が、今シーズン、エリテセリエンで最も高額の契約を果たしたトップスコアラーのベガード・アーリアン選手です。2部クラブのランハイムからフリーで移籍した彼は9ゴールを決めており、得点王の一人。ペナルティースポットで特に信頼され、素晴らしい個人ゴールもいくつか決めました。昨年の彼のシュート精度は50%以上であり、印象的な数字となっています。
トロムソ、歴史を変えよ。
間違いなく、再び強くなっているトロムソ。フィールド上では、ガウテ・ヘルストラップ監督の下で型破りなサッカースタイルが光ります。統計上の超過達成は持続不可能だと主張する人もいますが、数字が現実を物語っています。トロムソは素晴らしい「結果」を残し、さまざまな場面でうまく試合をコントロールするチームになってきました。
フィールド外でも、素晴らしい進歩を遂げています。人材の発掘プロセスははるかに改善され、クラブ内のコーチングシステムにより個人のレベルが向上しています。
トロムソにも野心の火があります。おそらく北部のライバル、ボデ/グリムトの成功に後押しされて、メダルの獲得を決意しているようです。エリテセリエンのタイトルは未だなく、ノルウェーカップでの2回の優勝のうち最後に優勝したのは1996年に遡ります。このクラブが現在の軌道で成長を続ければ、歴史が変わるのも遠くないでしょう。