客観的視点が選手寿命を伸ばす。常葉大学サッカー部 山西監督が語る映像分析の恩恵
現役時代はジュビロ磐田や清水エスパルスで活躍した山西尊裕(やまにし・たかひろ)さん。引退後の2013年には常葉大学浜松キャンパス サッカー部コーチに就任、2022年からは監督としてチームを率いています。
山西さんが指導において重要視するのが、客観的な視点です。常葉大学サッカー部ではHudlを導入後、選手が積極的に映像分析を活用。自分自身のプレーを客観的に振り返ることで、サッカーの理解を深めています。
「映像分析が発展し、主観と客観の視点を持ち合わせた選手が増えた。選手寿命が伸びていることにも関係あるのでは」と語る山西さん。現役時代の裏話から常葉大学サッカー部でのHudl活用法まで、映像分析がもたらす恩恵について伺いました。
動画のアップロードだけで分析完了。Hudl導入で解消した悩み
ーまず、Hudlを導入した経緯を教えていただけますか?
山西:以前はHudlではない映像分析サービスを使用して、攻撃はノボリさん(澤登正朗・元監督)、守備は僕と分担して作業していました。
ただ、シュートやセットプレー、オフサイドの数などのスタッツを自分たちで計測する必要があったんです。複数人同時に編集作業ができるなど、便利なところはあったのですが、僕たちがいちばん省きたいと思っていた分析の部分を自力でやらなければいけないのが悩みでした。
そんなときにHudlの存在を知ったんです。試合映像をアップロードするだけで、タグづけやスタッツなど分析をしてくれるので「これはいいな」と。
ー常葉大学サッカーには複数のチームが存在していますよね。具体的なHudlの運用方法は?
山西:常葉大学サッカー部は、東海学生リーグ1部所属のTOPチーム(Aチーム、Bチーム)と、東海社会人1部リーグ所属の常葉大学FC、静岡県社会人1部リーグ所属の常葉大学キトルスに分かれて活動しています。
そのうち映像分析をしているのはTOPのAチーム。その他のチームは映像をアップロードしているだけです。Aチームとその他のチームを差別化することで、選手の向上心を促す形にしています。詳しい分析が見たいなら、上にあがってくるんだぞ、と。
分析はなくとも、動画をアップロードするだけでも十分な意味があります。無観客や遠方での試合が多い社会人リーグは、試合映像を見ることができないことが多いんです。情報はTwitter上のメンバーやスコアだけ。Hudlを導入したことで「試合の映像が見たい」という選手の親御さんの要望にも応えることができています。
映像で、客観的な視点を手に入れる
ー映像分析を取り入れているAチームでは、具体的にどういった場面で映像を活用しているのでしょうか?
山西:チームとしてHudlの映像を使ったミーティングをすることはありません。選手自身が気になったシーンを確認したり、ときにはキャプテンが主導になって選手だけのミーティングを開いたりしています。
選手が積極的に映像を確認するようになったことで、チームで共有できる場面が増えていると感じます。チームとして活用することもできますが、選手自身に任せているのはうちならではかなと思います。
マネージャー(持永 成美):基本的には私たちがHudlに動画をアップロードし、選手に共有しています。選手からは「早くアップロードして」と言われるので、試合帰りのバスでアップロードすることもありますよ(笑)。もともと映像を見ているのは上級生が多かったのですが、最近は下級生も積極的に活用するようになったと思います。そういった選手ほど試合に出て活躍している印象があります。
機能面でいうと、選手がAチームからBチームなどカテゴリーを移動することも少なくないなかで、ボタン一つで映像の格納場所を変更できるのは助かっています。
ー選手たちが能動的に使っているのは良いですね。
山西:Aチームに定着している選手は、映像を見ることが当たり前になっていると感じます。意識的に取り組んでいる選手は伸びていますよ。
映像や指導者からのアドバイスなどの客観的な視点は、選手にとってすごく大切なものです。映像分析が発展したことで、主観と客観の視点を持ち合わせた選手が増えたと思います。選手寿命が伸びていることにも関係あるのではないでしょうか。
例えば、ドイツで活躍している長谷部誠選手は、現役選手でありながら指導者講習会に参加していますよね。そうやって客観的な視点を持てていることも、長く活躍できている要因の一つなのかなと思います。
“映像”と“データ”を融合し、サッカーの理解を深める
ーかつてプロサッカー選手として長く活躍してきた山西さんですが、当時から映像の重要性は意識していたのでしょうか?
山西:スタッフが映像を用意してくれていたのですが、正直「見たくないな」と思っていました(笑)。ディフェンダーとして指摘される部分も多く、映像を見ることにネガティブなイメージがあったんです。
ただ、映像は嘘をつきませんね。例えば、コーチから「守備の間合いが遠い」と言われたとき。自分ではそんなことないと思っているんです。それでも映像を見ると「これは遠いな」とすべて明らかになります。
ー現役時代は映像を見たくなかったのですね(笑)。
山西:そうですね(笑)。ただ、チームメイトと「あの場面はこうだったよね」など、練習後にジョギングをしながら振り返るのはすごく楽しかったんです。新人のころは練習についていくことに一生懸命すぎて、どこの場面かすら覚えていなかったんですけど、そういったところで差が生まれるのかなと。
現役を引退し、指導者としての活動を始めてから自分自身でも映像の編集・分析を行なってきましたが、やはり客観的にチームを見ることによって課題が明確になりますね。
当初は自分で編集ソフトを買って、映像を切り取ったりしていました。時間がかかるので大変でしたが、今はHudlにアップロードするだけなので助かっています。分析してくれているのがインドの方と知ったときは驚きました(笑)。
※Hudlの分析は、インド社に常駐するスタッフが担当している。
ー私も驚きました(笑)。すべての分析を機械に任せるのは、まだ難しいみたいですね。
山西:僕が現役の頃は、映像を用意するのに時間がかかったり、そもそも映像が無かったりしました。今では、アップロードした翌日には分析付きの映像を見ることができる。素晴らしい環境ですよね。これからもすごいスピードで技術が進化していくのだろうなと思います。
ー最後に、あらためて映像分析の魅力を教えてください。
山西:昔は一流選手しか目にすることができなかった映像分析が、Hudlなどのツールを活用することで誰でも見ることができるようになりました。僕自身まだまだ使いこなせていない部分もありますし、工夫次第でいくらでも活用できるものだと思っています。
サッカーへの理解をデータから深めていく選手もいれば、映像から深めていく選手もいます。どちらが正解ということではありません。映像とデータを融合させながら、選手も指導者も成長していければ良いなと思います。