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元鹿島アントラーズ監督・石井氏/川崎フロンターレ・森脇氏が明かすチーム強化の裏側。Hudl Masterclass 2023レポート

11月20日(月)、Jリーグクラブをはじめとしたチームの指導者や分析、強化担当者を対象に開催された「Hudl Masterclass 2023」。プロダクトの最新情報のほか、元鹿島アントラーズ監督の石井正忠(いしい・まさただ)氏、川崎フロンターレ強化部・森脇瑞貴(もりわき・みずき)氏が登壇し、チーム強化について講演を行いました。

この記事では、イベントレポートとして石井氏そして森脇氏の講演の様子をお届けします。

タイで過ごした3年間で学んだ新たなチームづくり

こんにちは、石井です。私からはタイのプロチームで活動していたときの取り組みについて、実際に使っていた資料をお見せしながらお話させていただければと思います。

私が初めてタイへと渡ったのが2019年の12月、そこから約3年で2チームの指揮をとりました。シーズン途中に就任した2つ目のチームに関しては、リーグ戦1位の状態で引き受けることになり、まずはリーグで優勝しなければならないというミッションがありました。そうした状況のなかで、リーグに加えて2つのカップ戦という三冠という結果を二年連続で達成することができました。

就任して二年目のシーズンはリーグ連覇はもちろん国内のカップ戦、あとはACL(アジアチャンピオンズリーグ)への出場権もありました。個人的には日本のヴァンフォーレ甲府さんとの試合を楽しみにしていました。結果的に日本で試合をする前にチームを離れることになってしまったのは残念でしたが…

それらの大会に向けて選手に伝えていたのは、「より高い目標を持ちながらトレーニングに励んでほしい」ということです。どの試合も相手関係なく、2点3点とリードを広げて試合を終えようと、選手に求めていました。

その年は、25人の選手でシーズンをスタートしました。ACLに出場するチームとしては少ないですが、必要であればアカデミー組織から補充できるほど体制が整っていたことが理由です。また、ほとんどの選手が昨シーズンから所属している選手だったので、プレシーズンのトレーニングも安定して実施できていましたし、これならACLも十分に戦えるという手応えはありました。

シーズンを戦うなかでの考え方についてですが、リーグの日程が発表されてから逆算して細かくトレーニングの目標や週ごとのスケジュールを作っていきます。日本ではその年が終わるとすぐに次のシーズンのスケジュールが発表されますが、タイリーグは開幕の2ヶ月前に日程が発表されるので、なかなかスケジュールを組むことができません。タイで活動した3年間でそういった部分のやりにくさは感じていました。

タイトル獲得に繋がった「習慣化」の大切さ

私はトレーニングのなかでも選手のコンディションを重視するタイプです。ピリオダイゼーションというコンディショニング理論を鹿島アントラーズで監督になってからずっと続けています。この理論のいいところは、けが人の発生を抑えることができることです。鹿島、大宮(アルディージャ)そしてタイと指導してきましたが、確実にけが人が減っている実感があります。

「TT」という戦術やテクニックのトレーニング、「FCT」というゲーム形式でフィジカルコンディションを上げていくトレーニングを、時期によって負荷を変えていくというトレーニングの考え方ですね。「FCT」は次に戦う相手の戦術などによってチーム分けの人数を変えながら、週ごとに負荷を調整していました。日本では紅白戦をしていたような状況でも、タイでは負荷が大きいと感じる選手が多いという状況もありました。このように、国によってトレーニングの内容も変えていました。

土曜日に試合があったら次の日はリカバリーとサブメンバー中心のトレーニングにして、月曜日は完全なオフ、休み明けは技術的なトレーニングで身体を動かしはじめるという流れです。

とにかくタイは一年中暑いので、日中に練習することはできません。やるとすれば7時半や8時など、朝にスタートしなければいけない環境でした。基本的には午前中は室内でジムセッション、夕方から約1時間〜1時間半くらいのトレーニングをしていました。暑さで集中力が欠けてしまうので必ず時間は決めていましたし、その分、トレーニング前後の個人的なケアは重要視させていました。

あとは遅刻をさせないこと。タイでは交通渋滞が多く、遅刻が当たり前のような感覚になっていたので、そこはブレることなくダメなことだと伝え続けました。だんだん選手たちも慣れてきて、何も言わなくても10分前には集合するようになりました。日本では当たり前のことだったとしても、きちんと伝えないと習慣は変わりません。トレーニングも含めてコツコツやり続けたことで成果に表れたのではないかと思います。

やはり重要なのは、コミュニケーションを徹底的に多く取ること。選手たちは、立場が上の人に対してすごく尊敬の心を持って接してくれるんですよね。そこでこちらから近づいて話をしてあげる、というのは毎日意識していました。そうすることで、考え方や戦術理解度も把握できるようになりましたね。

あとはスタッフとのコミュニケーションも重要です。トレーナーやコーチは選手と接する機会が多いので、選手の本音を知っていることがあります。監督の立場からするとそういった我慢がすごく大きなけがに繋がってしまうリスクもありますから、選手のパフォーマンスを最大限に仕上げるために、スタッフとも細かくコミュニケーションを取っていました。もちろん監督から直接「何でも話してほしい」と伝えることも大切です。

本当に細かいことなのですが、そういったことができるかどうかで選手が監督やチームに対して抱く気持ちも全然違うと思います。監督として信頼されるまでには時間がかかりますが、そんなときにコミュニケーションはとても重要なんだ、とタイでの3年間であらためて感じました。

あとは2年連続で三冠を達成した裏側には、日々の積み重ねがあります。攻守での改善面がすごくあったので、それを毎日言い続けました。もちろん気持ちが折れそうになることもありますが、戦い方のベーシックな部分をまずは徹底的に磨くことを意識しました。

習慣化されるまでは言い続けますし、日々の練習を100%でやってくれと伝えているなかで様子が気になる選手がいれば私やスタッフから声をかけました。タイの緩い環境のなかでプレーしてきた選手たちが、もっと上を目指すためのトレーニングをしてほしい、と指導してきた結果としてタイトルが取れたと思っています。私がこのような思いでやってきた、ということが今日は伝わればいいなと思います。

Hudl導入のきっかけは、ジョルジーニョ監督のひと言

また、今回はHudlさんのイベントに呼んでいただいたということで、私は鹿島でコーチをしていた2011年くらいから利用しています。ジョルジーニョ監督(当時)の「前半プレーを振り返りながら、ハーフタイムのミーティングをしたい」という要望がきっかけでした。

どんな方法があるかを探していたとき、『スポーツコード』に出会いました。そこからずっと使っていて、実際に今も振り返りのビデオをつくるときに、簡単にシーンを切り取れるので助かっています。どんどん機能も良くなっていて、試合の次の日にはすぐミーティングができる状態にまでなりました。私自身も機能の進化に全然追いつけていないほどです(笑)。これから勉強して、もっと効率よく選手のためにツールを使えるようにしたいと思っています。

また選手獲得では『Wyscout』を活用しています。タイのチームでは強化担当もいなかったので、自分で手元に届いた映像を全部見ていました。そんなときに『Wyscout』があれば、選手の能力や特徴を知ることができるので、すごくお世話になっているツールです。

タイでのサッカーへの取り組み方は以上になります。ありがとうございました。

キャリアのスタートは営業、通訳兼用具係…強化・分析を担うまでの異色のキャリア

こんにちは、川崎フロンターレ強化部の森脇です。今回は「川崎フロンターレの選手獲得プロセス」というテーマでお話させていただきます。

まずは私の経歴からお話させていただきます。いちばん最初に仕事をしたのはガイナーレ鳥取でした。大学在学中に留学を経験していて就職活動の時期が遅れたり、社会全体としても就職氷河期と言われていたりした時代だったので、漠然とサッカー業界で働きたいと思っていましたが、現実的には難しいだろうなと思っていました。

そんなとき、たまたま地元・鳥取のチームが中途での採用を検討していると耳にして、ダメ元で履歴書を送ったところ当時の社長と面談することができたんです。それがサッカー界で仕事をするようになったきっかけです。

ただ、それが分析や強化の仕事だったわけではありません。当時は営業という形で仕事をスタートさせました。基本的には営業の仕事をしながら、必要なときはファンクラブやチケット、サッカースクールの運営を手伝ったこともあります。留学経験を活かして、コートジボワール人選手の通訳やサポートをしていたこともあります。

そこから2年後、新たにコスタリカ人選手が2名加入するということで、通訳兼副務として現場で動くことになりました。

そんな中、私としてはどうしても海外で仕事をしたいという気持ちがあったんです。そのためにはもうちょっと英語を伸ばさないといけないなと、カナダへ行きました。サッカーと全く関係のない時間も過ごしましたし、日本人コミュニティのサッカーチームでお手伝いをしていた時期もあります。

2015年にはオーストラリアのメルボルンにも行きました。他の人があまり行っていない印象があったのと、メルボルン・シティというチームがシティグループとの繋がりがあったことが理由です。そこでいくつかのチームと面談を重ねて、最終的にはPascoe Vale FCというクラブで仕事をすることになりました。ただ、仕事といっても用具係というような形でした。ドリンクをつくったり、練習の手伝いをしたりという感じですね。

クラブとして成功体験を積むことで、Hudlの重要性に気づいた

また、この時期にHudlの『スポーツコード』とも出会いました。当時メルボルン・シティでアシスタントコーチを務めていた方が、チームを訪問してくださっていたんです。そこでのミーティングの際に、スポーツコードを使っていました。

まったく見たことのないツールだったので、ミーティング後に「これはなんというソフトウェアなのか?」と聞きました。すると「お前も使ってみるか?」と言ってくれて、ソフトの使い方やプレゼンの仕方など教えてもらうことができたんです。

PK戦の分析を担当させていただいて、シーズンの最後の試合では自分の分析をもとに勝ち進むこともできたので、そういった成功体験も積むことができました。選手やスタッフだけでなくオーナーも含めたクラブとしても、分析の重要性を理解して導入するきっかけになりました。

その後は、AC長野パルセイロで通訳として働きながら、リモートワークでイングランドのBlackpool FC U-18アナリストとしても活動していました。

Hudlを導入する前は、限られた人数のスタッフで選手個人のスタッツをエクセルシートに入れ込んだり、コーディングをしたりしていました。週末だけでなく水曜日にも試合がありましたし、他の仕事や勉強もあるなかで作業をしていたので大変でしたね。

そのあとはスペインのClub Colegio EDE U-19でアナリストとして活動していたタイミングで、ヴィッセル神戸からご連絡をいただきました。今までJ1で仕事をした経験が無かったので、個人的にすごく興味があるオファーでした。最初は用具係という鳥取時代と同じような仕事を任されていましたが、2019年には初めて強化部で働くことになりました。

当時は、主に映像やデータを見ながら選手獲得の資料づくりを担当しながら、現場の分析を手伝うこともありました。神戸の後は、清水エスパルスでチームの分析や相手個人の分析を担当することになりました。

その間にも、サウサンプトンのアカデミーで視察をさせてもらったり合宿に同行したり、あとはメディカルやリクルート、コーチディベロップメント部門の方ともお話をさせていただく機会もいただきました。

映像を活用して、選手だけでなくコーチも育成する

ここからは海外ではスポーツコードを使ってどんなことを進めているのか、という事例を紹介させていただければと思います。日本との違いとしては、ものすごい数のグラウンドすべてにカメラがついていて、選手だけでなくコーチを育成する環境が整っているということです。

アナリストやコーチディベロップ部門の担当者がコーチと会話をしながら、どんな言葉を多く使っているのかなど細かなアクションまでフィードバックをしています。

もちろん練習の内容はスポーツコードでコーディングして、フィードバックしています。そういったことは日本では見たことがなかったので、そういう使い方もあるんだというアイデアを知ることができました。

知られざる川崎フロンターレの選手獲得プロセスとは?

2023年から川崎フロンターレの強化部として仕事をしていますが、メインで関わっているのは選手獲得のプロセスです。これまでは代理人の方から選手の名前と映像、金額が送られてきたあとに、『Wyscout』を見て判断するというプロセスが多かったと思います。それに対してクラブが受け身ではなく、主体的に選手獲得を仕掛けていきたいという話があり、そこでHudlさんのサービスを使ってアプローチしています。

具体的にどういうサービスを使っているかというと、こういったダッシュボード上に打たれた点の位置を見て、選手の能力を評価しています。外から見た川崎フロンターレと中の人が見た川崎フロンターレは当然違いますし、認識がズレているといけないので、キャンプ前からピッチ内外の選手のキャラクターについて、強化部とスカウトで話しました。

ダッシュボードを作るときはポジションごとに作っていくので、例えばウイングの選手だったら攻守にどういった特徴を持っているのかをモデルとなる選手を使って会話をします。右の家長のような選手が良いのか、全く違う左のマルシーニョのようなタイプがいいのか。そういったモデルとなる選手を参考にデータをピックアップしていきます。

その後は、Wyscout上のデータがまとめられたスプレッドシートを受け取って確認していきます。データをダッシュボードに落とし込むときの細かな調整は、ミーティングを重ねて調整していただいています。

ただ、攻撃を縦軸、守備を横軸で見たときにすごくチームにフィットしそうだなと思っても、金額的に手が届かないというケースも多くあります。なので今はあらかじめ選手の市場価値をインターネット上で調べて把握したうえで追うように工夫しています。また丸が大きい選手は出場時間が長く、逆に小さい選手は出場時間が短く情報も少ないです。そういったときは怪我をしているリスクもあるので、そういった情報もきちんと事前にチェックしておく必要があると思います。

そうして良い選手だなと思ったらポジションごとのプレイヤーリストに追加します。このリストも自分たちが大事にしている項目を選択できるようになっていたり、既存の選手との比較ができるようになっていたりするので、ここを見ながら選手獲得の判断をするようにしています。もちろん僕一人ではなく、できるだけ多くのスタッフで確認するようにしています。

スタジアムに足を運んでパフォーマンスを確かめることもします。公式戦に出場していない選手だったら、練習試合に足を運んでプレーを見ることもあります。先ほどのダッシュボードはあくまでもデータでしかないので、それ以外の振る舞いや態度は見ることができません。そういったところをしっかりと現地に足を運んで見ることは大切だと思います。

たくさんの選手を見ていくなかで、ダッシュボードでフィルターをかけることができるのはクラブとして助かっているところです。もちろんさまざまなところから選手の情報は集めますが、できるだけ自分たちから情報を取りにいきたいと思っています。とくに外国人選手、川崎はブラジル人選手とのコネクションも強いクラブなので、多くの選手の中から誰を獲得するのかという判断が難しい場面で、ダッシュボードのフィルタリングをかけてアプローチしていくという形は作れたのではないかと思っています。以上で、終わります。

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