「Hudlがあったから優勝できた」インカレ優勝・東海大男子バスケ部監督が語る映像分析
映像分析ツール『Hudl(ハドル)』は、試合動画をアップロードするだけで、24時間以内にスタッツ集計やタグ付けなど詳細なデータを分析。世界中のスポーツチームで映像分析の一翼を担っています。
2022年に7度目のインカレ優勝を果たした強豪・東海大学男子バスケットボール部も、Hudl Sportscode(以下、スポーツコード)を使った映像分析に力を入れているチームのひとつ。2004年の導入後から、優秀な成績を収め続けています。
今回は、チームを率いる陸川章(りくかわ・あきら)監督と学生コーチの西尾昂也(にしお・こうや)さんに、スポーツコードの活用法やチーム・選手にあらわれた変化をうかがいました。
選手に伝えるときは「シンプルにする」ことが大切
ーまずは東海大学男子バスケットボール部が、いつからスポーツコードを導入しているのか教えていただけますか?
陸川監督:2004年からですね。それまでは私がビデオを見ながら時間をかけて分析をしていたのですが、スポーツコードは作業が早く画期的でした。現在、主な分析作業は学生コーチに任せています。
ー具体的にはどのように活用しているのでしょうか?
西尾学生コーチ:後輩に切り取りなどの作業を任せて、自分はそれをチェックをするのが主な役割です。試合中はクオーターごとに区切った動画をすぐにパソコンに入れ、試合が終わって選手がバスに乗るころにはレビューが完成している状態にしています。
また、練習前には必ず映像を見ながらコーチミーティングを実施しています。事前に監督やコーチからの情報があれば優先してピックアップしますし、自分が気になったことがあれば取り上げることもあります。
陸川監督:ただ映像を見せるだけでなく、ポイントを文字にしてくれるので選手たちも理解しやすいと思います。より具体的にプレーの感覚を捉えることができるので、スムーズに練習へ入ることができるんです。
ー分析するうえで意識していることはありますか?
西尾学生コーチ:なるべく短く要点を提示するようにしています。自分は理解していたとしても、選手が分からなければ自己満足になってしまいますからね。なるべく再現性の高い事象を、分かりやすい表現で伝えることが大切です。あとは日本代表のコーチの方がYouTubeで発信されているのを見て、伝え方などを参考にしています。
ー選手によって理解度も違いますし、工夫が必要ですよね。
西尾学生コーチ:専門的な用語を使いすぎてしまったとき、とくに下級生から「ちょっと難しい」と言われたこともありました。選手によって理解度にはギャップがありますし、数字をあまり気にしない選手もいます。スタッツの見方をミーティングで共有したり、「こういうパターンが多いよ」と繰り返し伝えたりして、少しずつチームに意識を浸透させていきました。
ー基本的には映像を用いつつ、数値もしっかり選手に伝えているのですね。
西尾学生コーチ:そうですね。ただ、自分自身も数字を追いかけすぎて、何を伝えたいのか分からなくなってしまうことは少なくありません。だからこそ、伝えることをシンプルにすることが大切なんです。
陸川監督:もちろん数字も大切ですが、みんな一緒じゃなくていいんですよ。細かく数字を見る選手もいれば、自分の感性でプレーする選手もいる。それぞれのやり方で力を発揮してくれたらいいなと思っています。
映像分析をはじめて、見える世界が広がった
ー陸川監督は20年以上の指導歴がありますが、映像分析は以前から取り組んでいたのでしょうか?
陸川監督:現役時代や、コーチとしてアメリカに留学したときも映像は見ていました。ただ、当時は細かく切り取られていなかったですし、作業をしたとしてもすごく時間がかかりましたね。
ーアメリカは日本と比べて映像分析が進んでいるイメージがありますが…
陸川監督:私が渡米した2000年頃は、そうでもなかったですよ。そもそも試合の撮影が禁止されていたり、すごくルールが厳しかったんです。それでも限られた映像を朝まで見ることはありました。今は自由に撮影してインターネットに投稿したり、スポーツコードのようなソフトも使えるようになったので助かっています。
ー西尾さんは数値や専門的な用語、スポーツコードのシステムに慣れて使いこなすまではいかがでしたか?
西尾学生コーチ:かなり苦労しました。もともと数字が苦手だったので、最初に使ったときは面くらいましたね(笑)。コーチや先輩、OBの方から教えてもらって少しずつ覚えていくうちに、「こういう見方もあるんだ」と世界が広がった感覚があります。
ーちなみに今まで分析してきたなかで、印象に残っている試合はありますか?
西尾学生コーチ:去年(2022年)のインカレは何度も映像を見て、自分としてもやり切ったと感じられた大会でした。大会の前に、先輩から「チームの戦術だけじゃなく、相手個人のクセまで捉えると良い」とアドバイスをいただいたんです。バスケをやったことのある人なら感覚的に分かるような利き手ごとの特徴や弱点も、映像を見せることで相手と対面したときにより意識することができます。
ー選手個人の分析ではどのように映像をまとめるのでしょうか?
西尾学生コーチ:選手ごとに、得意なプレーと弱点をまとめました。例えば、ボールを持っている相手への守備は上手いけど、ボールが無いときは棒立ちになっている、とか。リバウンドのときにボールウォッチャーになっているから狙っていこう、とか。そういった分析が「ハマったな」と思います。
ー映像でしか分からない気づきがありますね。陸川監督は、なにか印象深い試合はありますか?
陸川監督:今回のインカレは全ての試合が決勝戦のようだったので、1試合を選ぶことはできません。チームの全員がベストを尽くした結果だと思います。映像で振り返ったときに、コートの中はもちろん、試合中は見ることができないベンチや応援席にも目がいきました。試合に出ていない選手たちが必死に応援している姿を見て、チームが一つになって勝つことができたと実感しました。
「スポーツコードの分析があったから、インカレで優勝することができた」
ーここ数年チームは結果を残すことができていますが、分析面で何か変化はあったのでしょうか?
西尾学生コーチ:分析のクオリティ自体は、今までも高いものだったと思います。変わった部分としては、より後輩を巻き込んで分析を進めているところですね。まずは映像の切り抜きやスタッツの集計などの作業から、徐々にスカウティング全体を任せるようにしました。
陸川監督:試合ごとに後輩に任せるのか自分が担当するのかを判断していて、上手くコントロールしているなと思いました。
西尾学生コーチ:自分も下級生のときに試合の分析を任せてもらったことがあって、すごく良い経験になったんです。「どうしたら後輩たちにやりがいを感じてもらえるか」を考えるようにしていました。
ー陸川監督から見て、選手たちのデータに対する意識の変化は感じますか?
陸川監督:年々、意識は高まっていると感じます。大倉颯太(現 千葉ジェッツふなばし)なんかは「こうしたほうがいいんじゃないですか?」と直接言ってきたこともありますよ。やはりその裏付けとなるのは、映像による分析なんです。それが良い提案であれば「じゃあ、やってみよう」と。
私が大切にしているのは「チームのアイデンティティがブレていないか」ということ。チームで一つのボールを運んで攻撃する姿勢は、22年間変わらない部分です。そこがブレていないかをしっかり判断したうえで、立場に関係なく良いものは良いと認めるようにしています。
西尾学生コーチ:自分も颯太さんに呼ばれて、いっしょに映像を見たことがあります。あと去年(2022年)に関しては、チーム全体で映像分析を理解しようという雰囲気がありました。とくに島谷怜選手(レバンガ北海道)や黒川虎徹選手など、ガードのポジションで主力として試合に出ていた選手は数値への意識が高かったと感じます。
ー東海大学からBリーグへ活躍の舞台を移している選手も増えてきていますが、西尾さんの今後の目標は?
西尾学生コーチ:バスケの戦術に興味があるので、国内外いろいろなチームの戦い方をまとめて、自分なりの分析方法を見つけたいです。
ー西尾さんのこれからの活躍も楽しみにしています!では最後にあらためて、陸川監督から映像分析を導入するメリットについてお聞かせください。
陸川監督:対戦相手だけでなく、自分たちの強みや弱みもハッキリと知ることができるのが映像分析の良いところです。「敵を知り己を知れば百戦あやうからず」という言葉の通り、スポーツコードの分析があったからインカレで優勝することもできました。どんどん進化する映像分析を、これからも楽しみにしています。