「指導者の実力は、経験と若さで決まる」豊川高校サッカー部・長谷川大監督が明かす Hudl 導入の理由
映像分析ツール『Hudl(ハドル)』は、試合や練習動画をアップロードするだけで、24 時間以内にスタッツ集計やタグ付けなど詳細なデータ分析を代行。チェックしたい部分だけを抽出できる便利さもあり、世界中のスポーツチームで映像分析の一翼を担っています。
「真の日本一」を目指し、2023 年度から新体制で活動している愛知県の豊川高校サッカー部もHudl を導入しているチームのひとつ。現在は『Hudl Focus Flex カメラ』(以下、Focus Flex)も活用するなど、ツールを積極的に取り入れています。
今回は、長谷川大(はせがわ・だい)監督に、Hudl の活用方法や『Focus Flex』を導入した理由、ツールとの上手な付き合い方について伺いました。
恩師との約束を果たすため、再び高校サッカーの舞台へ
ーこれまでの指導歴について教えてください。
私が指導者としての第一歩を踏み出したのは、母校の秋田商業高校です。監督およびコーチとして17 年間、サッカー部を指導しました。選手権最多出場校であり、2 度の全国制覇を果たすなどユース年代ではトップクラスのチームを率いた経験が、私の指導者人生の基盤となっています。
また、高校での指導と並行して、秋田県の国体チームの監督を務めたり、東北選抜では当時青森山田高校サッカー部の監督であった黒田剛さん(現・FC 町田ゼルビア監督)と一緒にチームを率いたりと、17 年間で貴重な経験を積むことができました。
そして関東大学サッカーリーグ2部に所属する神奈川大学サッカー部の監督に就任。4 年間の指導の中で、日本代表として活躍する伊東純也選手をはじめ、多くの才能ある選手たちをJ リーグに輩出することができました。この頃は、トップレベルの選手を育成するための指導法が徐々に見えてきた時期でもあり、私にとって非常に学びの多い期間でした。
その後は山梨学院大学に移り、引き続き大学サッカーの現場で指導を続けていたのですが、ある時、系列校である山梨学院高校からお声が掛かったんです。「大学もいいけどもう一回、高校でやってみないか?」と。この提案をいただいて悩みました。自分としては大学で指導を続けるつもりでいたけどどうしようかなと。
ー実際は山梨学院高校で監督をされています。再び高校サッカーの現場に戻ろうと思った理由は何だったのでしょうか?
実はその年に、秋田商業時代の恩師である外山純先生が亡くなられたんです。自分が秋田を離れる際、先生から「選手権で優勝するまでは、もう一回秋田で指導しようなんて思うな」「S 級ライセンスを取るまで帰ってくるな」とか言われて(笑)。そのくらいの覚悟を持って勝負してこいと送り出していただいたので、ここでもう一度高校サッカーに挑戦しないといけないなと思ったんです。
そういったことも頭の片隅にありながら、正月明け 1 月 5 日に秋田商業の試合を見に行きました。流経大柏との選手権準々決勝。その試合は 0−1 で敗れてしまったけど、久々のベスト 8 進出でした。そこでの秋田商業の選手たちの戦いぶりを見て、なんだか先生の弔い合戦のように感じたんです。彼らの戦う姿に刺激を受け、自分ももう一回挑戦することを決めました。
ーそのような背景があったんですね。山梨学院高校に移られてからはいかがでしたか?
就任 1 年目はプリンスリーグ昇格はできたものの選手権は予選敗退。2 年目はコロナ禍真っ只中でインターハイがなくなり、最後の選手権だけは開催できるといった状況でしたが、そこで夢だった全国優勝を実現できましたね。
翌年は、自分のもう一つの夢であり、先生との約束でもあった S 級ライセンスの取得に挑戦しました。1 年間の受講期間を経て、昨年無事に取得。そのタイミングで、豊川高校の方から「もう一回、日本一を目指しませんか?」とお声掛けいただいたんです。どうやら愛知県では、地元の子たちが県外の強豪校に進学するケースが多いようで、その子たちを地元に留めて、日本一にならないか?という話でした。これはぜひ一度やってみたいなと思い、昨年から新たなチャレンジを始めています。
指導者の主観と客観的なデータを掛け合わせることが重要
ー選手を指導をする上で意識し続けていることや大切にしていることを教えてください。
指導者として若さと経験を大切にしています。ここで言う若さとは、文字通り若々しさやエネルギッシュさ、そして年齢です。この若さと経験が掛け合わさることで、指導者としての実力が決まると考えています。そのため、経験を積みながらも、若手のようなエネルギッシュさを失わないことが指導者にとっては重要です。
また、これは大学での指導を経験して分かったことですが、選手を動かすにはロジックに基づいた説明が必要不可欠です。高校までは感覚に頼る指導でも通用しましたが、大学では同じようにはいきません。「こうやるんだ!」と言っても、なぜそうやるのかの理由が求められます。ですから正直なところ、それまで自分がやっていたものは「指導ごっこ」だったのではないかと思わされました。大学サッカーを知って初めて真の指導の世界に足を踏み入れたと感じていますし、そのおかげで自分の指導を言語化できるようになり、経験値も上がったと考えています。
ー現在 Hudl を利用されていますが、どのような目的で活用していますか?
自分の中の感覚やイメージを具現化するために Hudl を使っています。今お話したように、指導者の主観だけで「こうやるんだ!」と言っても選手には伝わりません。そこで、誰が見ても同じであるデータを上手く活用することで、自分の考えやチームの目標を選手に分かりやすく伝えています。
今の時代、指導者の主観と客観的なデータを掛け合わせることが、チーム独自のサッカーを生み出す近道です。自分たちのスタイルを築き上げるためにも Hudl というツールは欠かせません。
ーHudl の具体的な利用方法を教えてください。
最初に、撮影した映像をアップロードし『Hudl Assist』でタグ付けを依頼、動画が戻ってくるまでの間に、まず一度映像をチェックします。戻り次第、自分が見た印象とタグ付けされた動画のイメージが一致しているかどうかを確認。これが最初のポイントです。ここで客観的なデータと自分の主観的な印象がアジャストするかどうかを検証しています。
次に行うのは、トランジション回数の比較です。ボールを奪ってから攻撃に繋げるトランジションの回数は、全ての試合で相手チームを上回ることを目標としているので、この比較は欠かせません。逆に、ポゼッション率に関しては、相手より何 % 以上であるべきといったものは特にないですね。
トランジション回数を比較した後は、各シーンを詳しく見ていきます。単に相手からボールを奪ったシーンも数に含まれているため、真のトランジションと言えるものを動画内から抽出。その際、動画を数秒戻すことができるので、自分で戻しながら、そのトランジションが発生した状況を出発点までさかのぼって確認しています。
編集作業では、抽出された映像をそのままクリップするのではなく、自分の目で確認した上で「これだ!」と思うシーンを選んでクリップしています。
『Focus Flex』導入の決め手は「自動アップロード機能」
ーHudl を利用する上で気をつけていることや心掛けていることはありますか?
Hudl は非常に有益なツールですが、導入しただけでチームが劇的に強くなるような魔法の道具ではありません。大切なのは、どのように使うかです。上手く活用できなければ宝の持ち腐れですし、逆に、私たち指導者がどれだけ優れたアイデアを持っていても、それをデータなどで証明できなければ、これもまた絵に描いた餅になってしまいます。重要なのは、指導者とツールの両方が高いレベルを維持し、常にアップデートしていくこと。ツールが日々進化していくように、私たち指導者も学ぶ姿勢を忘れず成長し続けることが大切だと考えています。
ーHudl を活用するにあたってスタッフ間でどのように役割分担をされていますか?
現状、Hudl を主に使用しているのは自分一人です。契約プランの都合上、A チームを中心に活用しているため監督の私が一番使用しています。カメラ撮影や映像のアップロード、多少の編集ができるスタッフは 3、4 人いますが、映像の抽出や取り込みは私の担当です。客観的な視点から主観的な部分を選び出すのは、監督の役割だと考えているので、今のところは自分で作業しています。
ー現在『Focus Flex』も利用されていますが、導入した理由や使用した感想をお聞かせいただけますか?
『Focus Flex』を選んだ理由の一つは、映像の自動アップロード機能です。撮影後にネット環境のあるところへ行けば、速やかに映像がアップロードされるので非常に助かります。おかげで『Hudl Assist』に映像を送るタイミングが遅れることもなくなりました。
他にも、撮影担当として選手の手を借りずに済むことや、全ての試合で同じカメラワークを維持できることも『Focus Flex』を導入した理由です。やはり撮影する視点が同一になるという点はとてもありがたいです。
ー最後に、今後の目標を教えてください。
独自の視点を持ちながら、Hudl を上手く活用して指導にいかしていきたいです。先ほど話に出た『Focus Flex』を使っていくのも楽しみですし、一日も早く結果を出して、選手たちを全国大会の舞台に連れていきたいと思います。