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栃木シティFC指揮官が驚愕した映像分析の力。新たな気づきで、もっとサッカーが楽しくなる

映像分析ツール『Hudl(ハドル)』は、試合動画をアップロードするだけで、24時間以内にスタッツ集計やタグ付けなど詳細なデータを分析。世界中のスポーツチームで映像分析の一翼を担っています。

関東サッカーリーグ1部所属の栃木シティFCも、Hudl Sportscode(以下、スポーツコード)を使った映像分析に力を入れているチームのひとつ。2021年11月の今矢直城(いまや・なおき)監督就任とともにスポーツコードを導入し、2022シーズンはリーグ優勝を果たしました。

かつて横浜F・マリノスでアンジェ・ポステコグルー元監督(現 セルティックFC監督/スコットランド)の通訳を務めるなど世界の分析事情にも詳しい今矢監督と、栃木シティFCヘッドアナリストの橋谷英志郎(はしや・えいしろう)さんに、スポーツコードの活用法から映像分析によってチームが目指す姿を伺いました。

スポーツコードによって、作業時間が15分から3分に

ーまずは栃木シティFCが、いつからスポーツコードを導入しているのか教えていただけますか?

今矢:私が監督に就任したタイミング(2021年11月)ですね。Hudlについて知ったのは、2018年に横浜F・マリノスで通訳をしていたときです。当時のアンジェ・ポステコグルー監督がオーストラリア代表の指揮を執っていた時代から使っていて、マリノスでも導入したんです。コーチングスタッフはみんな使っていましたね。

ー橋谷さんはこれまでも分析に携わっていらっしゃったと思いますが、どのように作業していたのですか?

橋谷:以前はフットサルのチームにいたのですが、そこでは別の編集ソフトを導入していました。ミーティング映像に加工を加える作業は今まで経験はありませんでした。栃木シティに来て初めてスポーツコードを使うようになってからは、圧倒的に作業スピードが早くなりましたね。30秒の動画をつくるのに15分ほどかかっていたのが、今では3分ほどで完成させることができます。

また、ミーティング中に「この部分を変えてほしい」などリクエストがあったときも、その場ですぐに編集することができるので便利です。僕の作業が遅れると監督を待たせてしまうことになるので、なるべくスピーディに作業するよう意識しています。

今矢:他の分析ソフトよりも早いと思います。スポーツコードの中でほとんどの作業が完結するのが良いですね。

ー具体的に、スポーツコードはどのように使っているのでしょうか?

橋谷:大きく分けると「対戦相手のスカウティング」と「自チームの振り返り」です。スカウティングに関しては、相手の試合をいくつかコーディングしたあとに、まずは監督含めてコーチングスタッフだけでミーティングをします。そこでは対戦相手の特徴の共有と対策を議論したうえで、選手に見せる映像を選ぶという流れですね。

自チームの振り返りについては、試合の翌日にコーチミーティングがあるので、それまでに試合のコーディングと振り返り用のプレイリストを完成させます。

今矢さんの目指すサッカーがしっかりと頭に入っているので、コーチミーティングの段階で30分以内まで絞り込むことができるんです。良かったプレー・悪かったプレーについての議論を行い、最終的なチームミーティングでは、studioを使って伝えたいメッセージを映像に加えて10分ほどにまとめて選手に伝えています。

マリノス時代に学んだ「分析の伝え方」

ー今矢さんは海外でのプレー経験や外国人監督のもとで通訳・コーチを務めた経験がありますが、日本と海外で分析に違いを感じたことはありますか?

今矢:オーストラリアでは、スポーツコードを取り入れる指導者が2部や3部リーグにも多くいました。分析官を目指す若者も多く、大学を卒業してからクラブチームにアルバイトとして加入するなど、育成の環境も整っていると感じます。

分析をして課題を見つけるというプロセスをすごく大事にしていて、ひどくて振り返りたくないような試合でも「必ず分析をしなければいけないんだ」とアンジェ(ポステコグルー)が話していたのを覚えています。

また、海外の指導者は要点を絞って共有していると感じます。実際、マリノス時代のコーチで一緒に作業していたピーター(ピーター・クラモフスキー/現モンテディオ山形監督)は、ミーティングの直前にどんどん映像を削っていくんです。選手が集中して話を聞ける時間を考えて、できるだけミーティングの時間を短くしたかったのだと思います。映像やスライドのつくり方やメッセージの伝え方は、アンジェやピーターからすごく学びました。

ーマリノス時代に学んだことが今に生きているのですね。

今矢:そうですね。ただしミーティング時間は僕の方が短いかもです。栃木では基本15分以内と決めていますし、それより短い時もあります。あとはアンジェの指摘の仕方が、すごく上手いなと思いました。彼は基本的にネガティブなシーンを見せません。「これはしてほしくないな」というプレーを伝えるときも、個人名を出さないんです。必ず「中盤の選手」というような表現を使います。そうすることでチーム内のエンゲージメントが高くなり、少しでも聞いてくれる選手が増えるんだ、と。プレゼンの仕方などはすごく工夫していました。

橋谷:たしかに、悪いシーンはほとんど見せないですね。僕自身、今まではエラーシーンをピックアップして振り返ることが多く、ここまでポジティブな映像ばかり見せるのは初めてでした。別のチームのアナリストにこのこと話すと、「マジで?」とびっくりされます。

今矢:きっとそのほうが選手も気分が良いですからね。選手が自信を持ってピッチに立つことがいちばんなので。正解を伝えれば、自然とダメなことも分かるはずです。

ー伝え方を変えることによって、選手に変化は感じますか?

橋谷:実行するときの精度は高くなると感じます。選手は試合中に高強度の運動をしているなかで、ロジカルに考えることは簡単ではないですし、感覚でプレーすることも少なくありません。今までいろいろなやり方を見てきましたが、目指すべき例を伝えたほうが分かりやすいと思います。

今矢:見えていない部分を選手に気づかせてあげるのが我々の仕事です。そういった意味で、映像を使ったミーティングは大事にしています。選手たちも言われたことに対して「そういうことか」と気づけるようになっていますし、習慣化されてきたなと感じます。

今までにない気づきで、サッカーが面白くなる

ースタッツなどの数値については、どのくらい選手に落とし込んでいるのでしょうか?

橋谷:基本的に個人のデータを見せることはありません。ただ、チームのスタイルに合った数値は、僕が手作業で集計しています。それを1年間にわたって追うことで、客観的な判断ができます。うまくいったという感覚的な部分と数値は一致することが多いですね。リーグ戦終盤になると、「これくらいはやらないといけない」基準値が出てくるので、それを下回ったときにすぐ修正することができます。

今矢:こうした数値の活用は、橋谷に提案されました。数値化することによって客観的な判断ができるので、勝敗だけで一喜一憂することがありません。たとえ負けたとしても、自分たちが重視すべき数値が相手を上回っていれば、「サッカーにはこういうときもあるよ。やっていることは間違っていないから」とメッセージを変えることもできます。その後に見せる映像の効果も上がりますからね。

ーとくに意識している項目はありますか?

今矢:攻撃的なチームなので、アタッキングエリアでの数値は意識していますね。やっぱり最後のところ、相手のゴール前を攻略できた回数は、勝敗に繋がっていることが多いです。

ー数値が新たな気づきのきっかけになるのですね。ちなみに、これまで「映像分析をしていて良かったな」というような印象的だったエピソードはありますか?

橋谷:ハーランド(マンチェスター・シティ所属)の映像を見せたときじゃないですか?

今矢:そうだね(笑)。昨シーズンまで所属していた吉田篤志っていう選手が、何度映像を見せても、なかなか背後に抜けるプレーができなくて。.本人も「やっているつもりなんですけど」と。そんなある日、練習の前にたった6秒くらいのハーランドの得点シーンを見せたんです。するとすぐに背後への抜け出しから点を取りはじめて...

橋谷:あの映像の効果には驚きましたね(笑)。

今矢:同じレフティーで、デカくて早い選手だったので、ストンと腑に落ちたんじゃないですかね。ベンチ外だったなかで、そこからスタメンに定着して、JFLのチームに移籍していきました。何がきっかけになるのかは選手によって違うんだなと、僕自身すごく勉強になったエピソードでした。

橋谷:コーチミーティングでも、人によって見ているところが全然違うので面白いですよ。「そこを見ているんだ」というのが、どんどん出てきます。少しずつそれぞれの特徴も分かってきますし、その擦り合わせがチーム全体としてできていると思います。

今矢:今までに無い気づきがあると、サッカーがより面白くなりますよね。選手もそれに気づきはじめていると思います。

橋谷:僕自身、指導者になって映像を見ることの大切さに気づきました。選手だったときに「もっと自分自身のプレーやチームに興味を持って、映像を見ておけば良かったな」とも思います。選手にはもっと映像を活用してほしいですね。

昨シーズン後半につかんだ手応え「とにかく分析は積み重ね」

ー最後にあらためて、映像分析を取り入れるメリットについて聞かせてください。

橋谷:とにかく分析は「積み重ね」だと思っています。昨シーズンは後期になって、相手との差を感じた試合が多かったですね。

今矢:たしかに、後期は映像分析の効果を感じる試合は多かったね。絶対に手助けになると思います。ただ、それには指導者自身がプレーモデルをしっかり持っている必要があります。国内外いろいろなところにヒントは転がっていますが、どんなことを選手にやってほしいのかという原則がないと、ただ局面の繋ぎ合わせになってしまいます。

橋谷:言葉やボードだけでは伝わらないところまで、映像を使えば事実に基づいて振り返りができます。今後はもっとスピーディにフィードバックができるようにしていきたいですね。また栃木シティは、ハード面がすごく整っているクラブなので、この施設を有効活用していきたいと思っています。



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