Hudl Assistでワークフローを削ぎ落としたら、ビデオを観る質が変わった。茨城ロボッツ・磯野眞(後編)
20/21シーズン、B2プレーオフを勝ち上がり、悲願のB1昇格を掴み取った茨城ロボッツ。各選手の活躍が素晴らしかったのはもちろんですが、その背後にはコーチ陣のハードワークと今シーズンから導入した分析ソリューションのコラボレーションがありました。
その舞台裏について、アシスタントコーチ/通訳としてロボッツの躍進を支えた磯野眞さんにお話を伺いました。後編では、2年間の茨城ロボッツでの分析にまつわる経験について語っていただきます。
(前編はこちら)
■試行錯誤を続けたプロ1年目
ロボッツでの自分の役割は1年目から変わっていません。基本的には対戦相手のスカウティングを担当しています。
ただ、今振り返ると、1年目は難しかったです。ビデオの部分だけとってもアメリカ時代と比べて人手も少ないのに、コーチング含めた他のこともやらなければいけないので、本当に試行錯誤の毎日でした。正直に言って、寝ずに映像切ることも何度もありました。次の対戦相手の映像は直近3−4試合、少ないときは2試合しか見れないこともありました。チームとしてもコロナによるシーズン打ち切り、昇格も果たせず、悔しい1年となりました。
ただ、アメリカ時代のフォーマットを活用して、スポーツコードで客観的な数値を用いて提案する部分はうまくできていたと思います。例えば、ディフェンスはゾーンがいいのかマンツーマンがいいのか、それからピックアンドロールでどれだけやられているのか、といったことです。B2にはシナジーが提供されていないので、そういったポイントを抑えるのはより重要でした。
■変化の2年目、削ぎ落とすためのHudl Assist導入
2年目を迎えるにあたり、ヘッドコーチが変わり、シンプルなことを突き詰める、という方針になったことがまず大きな変化でした。
キーワードは「Unselfish」「Toughness」、KPIは「相手より1本多くリバウンドを取る」「相手より1本ターンオーバーを少なくする」という2つずつだけ。選手にも浸透しやすかったと感じています。このキーワード、ターゲットをシーズン通して言い続けましたね。
スカウティングに関しても、何か1年目から変化をつけたいと思い、Hudl Assistの導入を決めました。ベーシックな内容とはいえ、B2の試合を全てタグ付けしてくれるというのは非常に魅力的です。もちろん、自分ですべてコーディングする方が内容を調整しやすいのは間違いないのですが、それだと観れる試合数に限界があります。自分としてはアシスタントコーチとして他にもやりたいことがありますし、諦めるところは諦めて、効率を上げていこうという判断をしました。
具体的に言うと、自分で入力する部分をオフェンスセットだけに絞ったんです。
■ワークフローを取捨選択したことでビデオを観る質が変わった
この変化をつけたことによるメリットは、大きく分けて、3つありました。
分析工程に割く時間配分の変化、チェックできる試合数の増加、ビデオを観る質の変化、です。
1つ目の分析工程に割く時間配分の変化ですが、作る・まとめる・伝える、という分析の3つの工程で考えると、1年目は70-25-5(%)くらいの割合で時間を割いていたと思います。それがワークフローの見直しで50-45-5(%)くらいの配分にすることができるようになりました。まとめることに時間を割けるようになったということはすなわち提供する映像、分析の質の向上につながります。提供する映像をより吟味することができるということなので。
2つ目のチェックできる試合数の増加に関して、1試合のチェックにかかる時間を30~40%削減することができました。それに伴い、先ほど述べたように1年目は最大でも3~4試合しか観れていなかったところを、2年目は最低3節(5~6試合)観ることができるようになりました。
最後に、ビデオを観る質が変わりました。詳細にコーディングしながらだとデータを正確に入力することに集中するので、なかなか試合の流れや内容が頭に入ってこないんですよね。そうすると、コーチと話したときに中々試合の展開の話についていけない。1年目は流れを確認するために再度見直すこともありました。2年目になり入力内容を削減したことで、試合の流れも含めて追うことができるようになりました。
スタッツはもちろんですが、現場的には質の部分も非常に重要なので、スカウティングとコーチングを並行して行く上で試合の流れを追うことができるようになったのは大きなポイントでしたね。
■分析でチームの方針を示す
身も蓋もない話ですが、やはり勝敗に一番大きな影響を与えるのは選手編成です。ただ、その中でなぜ分析が必要かといえば、防げるポイントを防ぐ、といったディテールの部分を突き詰めるためなのかなと思っています。さらに言えば、チームの方針を示すためでもあるとも考えています。どういうことかというと、スカウティングには相手のやってくることを解析するだけではなく、それに対してどういった対応策を取るか、というところまでが含まれると思いますが、その対応策の選択にチームの方針が現れると思うんです。
取りうる対応策は常に複数あるわけで、その中で常に確率が高いものを選ぶとは限らないわけです。相手はこういう戦術を使う、セオリーで言えばこの対応策が一番守れる確率高いけど、自分たちはこういうスタイル、フィロソフィーでやっているから別の対応策を取るよ、といったことです。
ここまで考えられるようになったのは2年目になってからで、それは1年目の経験はもちろんですが、Assistを活用することでワークフローを削ぎ落とし、時間的な余裕を作ることができたというのも大きな理由だと感じています。削ぎ落としましたが、スカウティングに関してはほとんど支障がありませんでしたし、1年目と比べてより良いものを提供できたと思っています。
将来的にはチーム編成、リクルートなどに関わるポストに興味があります。今はまだなかなかそこに投資するクラブは多くないですが、今後市場が拡大していったり、リーグのレギュレーションなどが変わったりするなかで需要が大きくなっていくと思います。
そういったプロセスにも、もっと数字を活用するチャンスが眠っていると考えているので、自分の強みを活かして先駆者的になれる分野なのかなと思います。
プロフィール
磯野 眞(いその まこと)
茨城県常陸太田市出身。東京大学卒業後、米国NY州のSt. John’s Universityのスポーツ経営学修士課程へ進学。在学の傍ら、2016-17シーズンにはChrsit the King High School男子チームのアシスタントコーチ、2017-18シーズンよりSt. John’s University女子チームのビデオマネージャー(のちにグラジュエート・アシスタント)を務める。大学院修了後は、同チームのビデオコーディネーターに就任。同シーズン終了後に帰国、茨城ロボッツのアシスタントコーチ兼通訳へ、2季目となる2020-21シーズンにはB2リーグ準優勝、B1昇格を果たす。21−22シーズンから長崎ヴェルカのアナライジング・コーチ兼オンザコート通訳に就任。